むさむさ浪人記〜超強烈講師列伝その一(二があるかは知らない)〜


そうやってテストを受け、目の前で、何食わぬ顔で鎮座するラブホに圧倒されつつ電車に乗り、ぼくは家へと帰った。予備校がある辺りはかなり殺風景で、何車線あるのだか分からない、やたらと広い道路が目の前にあって、空を見上げるとドカドカとこれまた重々しい高速道路がやたらめったに交錯していたりする。反対側の出口はこれまたやたらとデカイ建物に面してあって、中にはホームセンターや本屋が入ってる。実はこの本屋、結構なフロア面積でさしずめ「本のテーマパーク」みたいなもので、とにかく巨大な書店で、なおかつ予備校からすぐ行ける距離にあるので浪人中はふらふらと出向いたりしたものだった。浪人生というのも、授業自体は夕方頃にはサクッと終わってしまうので(割と大学みたいな感じかもしれない)、「一年受験勉強だけをする」ために大学にも行かず、就職もせずただ予備校に通うなどしている浪人生はつまり勉強をしないと、受験勉強を放棄すると自らの存在条件そのものが無に帰すわけであるので、まあみなぞろぞろと授業が終わっても帰ったりせず自習室に篭り予習をしたり復習をしたり問題を解いたり問題を解くなど、また予習をして問題を解きたまに質問に行き復習をして問題を解くなどして問題を解いたりしているのである。しかし、私にはそれが中々できなかった。自習、正直しんどいし疲れる。朝一から授業を受け、今度は夜遅くまでひたすら自習。また朝早く起き電車に乗り授業を受け、その後自習室に行き自習というサイクルをひたすら繰り返すことになる。単調だ。キツい。しかしこんなことを「辛い」などというのは正直甘ったれでもある。予備校に通え、また自習室という環境があること自体とても勉強が捗るわけで、浪人生としてはかなり幸せなもんである。はて、みなさまは私も同じサイクルを繰り返しこの後はその達成感、やそのときに考えたこと、胸中を語る流れになるのかと、ひょっとするとそう思われた方もいらっしゃるかもしれないが、

端的に言おう。





私はダメ浪人生であった。





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磨りガラスの、背の高い二枚扉を開ける。中には整然と椅子と机が並べてある。部屋は広く、入って左を向くと机同士が板で仕切られたブース席があるのがわかる。右手には大量の赤本と、古めだが参考書も何冊か置いてある。そのガラスで仕切られたお本コーナーの中にはおっちゃんが(優しい。好き)座っていて、おっちゃんに申込書みたいなものを書いて渡すとその優しいおっちゃんが本を貸してくれるのだ。おっちゃんは座席や書籍の管理業務を行い、名目上は自習室の「監督者」という立場だったりするのだが、まあおっちゃん、ほんま優しかった。席を借りるときはおっちゃんから席番号が書いてる札をもらうのだけど、ときたま、札を渡すときにこっそり森永の「ミルクキャラメル」をくれるのだ。そう、ミルクキャラメル。席を借りるときにも、返すときにも本を借りるときにも、周りから見えないように手でそっと隠したミルクキャラメルを、ぼくの手を包むようにして渡し、そうするとイタズラをした子供のように、無邪気に笑いかけてくれたりした。そんなおっちゃんに貰ったミルクキャラメルをそのままポッケに突っ込んで、まあ大して溌剌としたこともないけどなんか元気出るな、なんて思ったりしながらぼくは家に帰っていた。なんだか、それを食べるのは勿体無くて、ぼくは自分の部屋で全部食べずに保存していたのだけど、だんだん「ミルクキャラメルの丘」みたいなものができてきて、たまに土砂崩れを起こしたりした。あんなに大事に置いてあったキャラメル、そのあとどうしたかは何故か覚えていない。あの量を食べたわけではなかろうし、いまはどこにあるんだろうな、おっちゃんのくれたミルクキャラメル




いかん!なんかいい感じのハートウォーミングストーリーみたいにして話を終わりそうになってしまった。森永が「森永製品に関するあなたの心温まるエピソード、教えてください。」みたいなことやり出したら「おっちゃんのくれたミルクキャラメル」みたいな題で送ってみようかな。











ええねんミルクキャラメルは!!!それにしてもやけど、キャラメルって食うの大変じゃないですか。なんか歯にへばりつくし。そういやぼくが小学生くらいのときやったかな、なんか「生キャラメル」みたいなの流行りませんでした。なんかあれでしこたま儲けたおっさんいましたよね、確か。なんなんやろな、生キャラメルて。どこがどう生なんやろ。生キャラメルてことは半生キャラメルとかあんのかな。半生キャラメルて、「人の一生の半分」キャラメルってミスリードしそう。なんの話やっけ。ああそうそうキャラメルが歯にへばりつきやすいってやつやな。でもこう考えるとあの生キャラメルはあんまり歯にくっつかなかったりすんのかな。いやだってやで、あんなにテレビで取り上げられるくらいやし、味以外にも何かあったからヒットしたのかもしれん。いや、でもそれやったらわざわざ「ウンタラカンタラぼくじょーのウンタラカンタラキャラメル」とか言わんよな。「歯に着かない!すげえ歯にツカ=ナーイキャラメル!」みたいに売り出すよな。わざわざ生って言うもんな。なんやろ、生演奏ってこうデータ化された音源じゃなくて目の前で演奏することやし、なんやろな生キャラメルってことはあれなんかな、うん、あーえっとああごめんなさい類推失敗しました。

というか、テキトーにキャラメルの前にウンタラカンタラって付けてウンタラカンタラキャラメルて書いてみたけどなんかすげえ読みにくいカタカナ文字列爆誕しましたやん。ウンタラカンタラキャラメル。あ、いやでも割とパッと読めるかも?いや、でもこれはぼくがずっとウンタラカンタラキャラメルって書いてるから「ウンタラカンタラ」と「キャラメル」に分かれて見えるけど、他の人が見たらそうは見えへんかもしれん。自分が見えてる世界が他人にも同じように見えてるとは限らんもんな、自戒。

ん、てことはウンタラカンタラキャラメルは、「ウンタラカン」「タラキャラメル」ていう風に見えたり、あるいは「ウンタ」「ラカンタラキャラメル」に見え…………





 


へんやろ!!!やっぱ「ウンタラカンタラキャラメル」は「ウンタラカンタラ」と「キャラメル」に見えるし、アハーンこいつ形容詞を誤魔化すために「ウンタラカンタラ」ってつけてんねやなってすぐわかるやろ!!!分かれ!!!!やっぱ「ウンタ」て意味不明やもん。パッと見で意味不明なものの塊同士に語を分けるようには人間の脳ってできてへんのやと思うねんな。例えば「豚レバニラチャーシュー和え」が目の前にあったとして、その人はアア、なんや「豚レバニラにチャーシューが和えてあるんや」とわかるわけ。「豚チャーシューにレバニラが和えてある」とは思わんし、ましてや「豚レチャーシューにバニラが和えてある」とは思わんやろ。いやましてやまして、「和えに豚チャラバニーーシュレ」とか思わんろや?あれ、なんか文がおしくかるってなる………えっ?いやてかもそ浪そも人記てた書いのになんでラメ生キャルの話にてんなっーーいお句でたっどかっ点ま読い!、ったあ戻なんか?い次ほんやとはらかといす書ゃうまこちつすんと思)づく(



























自習室のおっちゃん、あのときはありがとうございました。どうでもいいと思っていた時間が、おっちゃんのおかげで少しだけどうでもよくなくなったんやろなと、そう思います。それと貰ったミルクキャラメル、一個も食べなかったって勢いで書いてしまいましたが、二、三個は、多分、食べました。





つづく