本当に、全身の細胞のことを否が応でも意識せざるを得ないような、そんな、生の悦びを根底から感じられるような出来事に出会ったとき、誰にも言えなくなってしまう。 減るモンではない。それはそうだ。話したところで何も減らないし、むしろ感動を共有できて…
A detour 回り道、という日本語がある。周る、と表記する方が的確なように思うのだけれど、回る、の方がしっくりくる。迂回、も回っているのだし、このどこにも辿り着かない感覚がグルグル感と結びついているのだろうか。 一直線で目的地に辿り着ける条件が…
うしろでずっとカネコアヤノの音楽が鳴っている。壁を隔てた向こう側にカネコがいる。信じられない。 『やさしい生活』のアレンジが流れる。それを、隣の二人組が口ずさむ。リハーサル。隠す気などなく、音が全て漏れてしまう。暑い。しばらくして、道路の反…
例えば道を歩いているとして、真ん中にカラーコーンが出てくる。どうやって避けるか?右か、左か。果ては股の下に通して直進するのか。 そういうときは、なんとなく惹かれる方へ曲がっていく。みぎ、だな。直前になっていや、左の方が正しい、みたいな。何か…
出張で広島にやってきた。会社の経費で新幹線に乗り、会社の経費でレンタカーを借りて、走った。岡山から広島の県境、国道二号線に「広島県」「福山市」という標識が聳え立つ。 即座に思い出す。来たことがある。大学二回生のころ、京都から今治までママチャ…
お金を稼ぐとか、人にえらいと褒められるだとか、したい。大きな家に住みたいとか、美味しいものをたらふく食べたい。だが、究極的に言って、何でもかんでも自分で生み出したい。どこに針を刺すのか、ということ。どこに軸足を置くのか。それがはっきりする…
距離がある。この人とは連絡を取れるかなあ、という時間の距離。連絡を取り合ったり、することへの賞味期限。なんとなく連絡が来たり、取ったりするけれど、いつしかそういうことをしなくなる臨界点のようなものがある。そんな気がする。 だいたい一年。多分…
とらわれている。思い付いた複雑な綾を形にすることに。ずっととらわれている。全部をポーズさせておきたいし、複雑なことはそのままにしておきたい。ずっとよくわからないままに。曖昧な状態で。囚われている。中間でホールドし続けることに。異様なまでの…
働いたあとに茶道の稽古に行っていた。 めちゃくちゃ疲れた。頭が全然回らなくて、繰り返して行っていた動作が全く出来なくなる瞬間があった。こんなにぐったり疲れた人間にはなりたくない。ずっとピンピンしていたい。だが、疲労が溜まると、こう自分の中の…
魂には鮮度がある。変化し続ける魂を真空パックするためには、文字にするしかない。 浮かんでくる風景、イメージ、香り。前頭前野を突き動かすビート。鼓動する心臓と息、貧乏ゆすり。リズム。今という時間。 その全てが、文字となって現れる。具現化する、…
書くときだけ音が消える。どんな雑踏も。どんな記憶も。全部過ぎ去っていく。全てが今になる。 書くときにだけ、音が消え去る。イマの鼓動だけが聞こえる。そういうとき、やはり生きているんだなと、感じる。書くときには音が消えるから。自分だけが動いてい…
音楽は常に流しっぱなしだ。たとえば、部屋で音楽を流していて、風呂に入るとする。流すものはとんかつでもさとのとんかつでも、とさのもんかつでもいいのだが、流しっぱなしにしておくものなのだ。切ってはいけない。どこかで音が響いている。聞こえていな…
上の親知らずを抜いた。結局、昔から行きつけの歯医者で、抜いた。気軽にスポッと抜けた。「足折れんくてよかったですね。」医者がそう言う。どういうことかというと、普通親知らずの根っこの部分は1本ないし2本なのだが、俺の親知らずは4本脚だったらしい。…
ほどく ほどくために、歩く。夜、23時を少し過ぎた頃、家のまわりを、あるく。ただ、あるく。ほどく。色んなものをほどくために。絡まったり、まとわりついたり、乗っかったりしたものたちを、おろす。そのために、歩く。働いているとなぜ本が読めなくなるの…
じっさい一年くらい本を読む時間はあったわけだ。だが、もちろん、本を読んで英気を養っていたいわけではなく、ただそういう時間が欲しいだけで、実際与えられると、「まあ、なんだかなあ」という気持ちに、なってしまう。欲すれど、与えられた途端欲しくな…
今日は会社の接待の飲みの場があり、上司、お客さん3人で飲んだ。 後半、上司の説教が始まった。そして、この人はどうしてこんなに暴言(説教の範疇を超えたシンプルな暴言も含まれていた)を吐くのだろうか、ということを考えた。 まず、40代も後半に差し掛か…
駅のイスに座っていた。TOEICの問題集を解く。あまりにも、つまらない。砂の上でペンを走らせているみたいだ。書きつけることはできない。最初はくっきりとしていた輪郭は、曖昧になる。埋まっていく。 丸テーブル、イス、イス、イスという配置だ。ふと、老…
コミュニケーション能力が大切だとお題目のように、教育現場でも唱えられたりする。そうした能力が高い人をコミュ力お化けと呼称したりもする。特に若者の間では。 なんだか、しょうもないなあと思う。社会全体で、そんな能力を持て囃したって仕方がない。も…
ヤバい、あまりにも人の言うことを聞きたくない。 もう尋常じゃない。いや、できる。愛想良くできる。イキらずに立ち振る舞える。でも、息苦しさがハンパじゃない。 フルタイムで働いていると、全然頭が回らなくなる。本はギリ読めるけど、ぼんやりとした考…
ライブに行ってもあんまし覚えていないな。なんことに気がついたのは、カネコアヤノのビルボードライブの音源を聴いているときだった。 十二月に大阪で行われたビルボードライブ。その場に俺は居合わせており、確かにハンバーガーを食いながら一人で聴いてい…
今日は用事があって京都に行った。人と会ったりするために。出町柳からバスに乗って歩いたり、自転車を借りて京都駅まで漕いだ。 断言する。京都は夢の国だ。 ミニチュアのような路地。歴史を優しくサンドして立ち並ぶ街屋たち。祇園の煌びやかさ。鴨川には…
無職になるには才能がいる。悠々自適に無職になれる人間と、毎日激しい後悔をしながら無職になる人間の二種類がいる。俺は後者だった。去年の7月に無職になった。じつは結構、楽しみだった。何もしがらみがなく、ただ自由に、やりたいことを好きなだけやれる…
「バグダッドのタハリール広場でさ、演劇やってんねやて。見に行こうや。」 確かあれは五年前の夏、京都の鴨川沿い、とある一軒家にて先輩が言い放った一言だった。 「いいすよ。行きましょう。」 あまりにも無邪気に言われたので、こう無邪気に返した。近所…
恋人の家でジャージャー麺を適当に作った。 スーパーに行って具材を買ったのだけれど、タマネギを切っているときに「あ。」と思い出して、甜麺醤を買い忘れたことに気付いた。冷蔵庫を探るとしわくちゃのチューブのそいつがいて、なんとか最後の全力を振り絞…
何かを考えるときに、スルッと抜けてしまう。 たとえば、桃を食べるか〜とかかんがえる。すると、その対象から滑り落ちるようにして別のことに思考がシフトする。目の前にバトル漫画があって、読みたいと思う。読むか、と思った瞬間に、パソコンをつけてマヤ…
何かを書いたり、喋ったりするとき、自分の前に膜があって、その上にマッピングしている感覚がある。 これを言い表すのは非常に難しい。何か言いたいことがあったとき、外堀から埋めるようにしてブロックとして言葉を配置する、みたいな感覚。その、膜がピン…
ゲストハウスに住んでいる。一週間になる。 昔、というか約一年ほど前までは旅することが好きだったので、ドミトリータイプのゲストハウスによく泊まっていた。二段ベッドで、他の人と相部屋の、貧乏旅行でよく見るあれだ。泊まる度に、その緩さにどっぷり浸…
「や、抜くしかないっす」 頭がチリチリで、髭が汚く生えた「先生」は俺にそう言い放つ。俺が横たわるベッドの頭の部分を、何の断りもなく「ガタン」と下げて、ヒ〜と一瞥して、そう言い放った。レントゲンとか何も見てない。撮った意味あるのか?大体、歯科…
カネコアヤノのことを知ったのは、たしか2019年の夏だ。イラン留学から帰ってきて、冷房の効いた部屋で適当にYouTubeを流し見ていた。そこで、2018年の「森道」でのカネコアヤノのライブ映像を観たのが、初めてだった。 最初はちょっとイケ好かないと思って…
めっちゃ物運んでる。ここ一年ずっと。 家から和歌山の宿舎に炊飯器やら大量の荷物を運んだ。そこから一週間足らずで、そこから全部荷物背負って大阪まで運んだ。そいで、そっから借りてるホステルまで一部荷物運ぶ。そんで、またそこから実家まで荷物運ぶ。…