洗濯機みたいな揺れー屋久島からトカラへー

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鹿児島の南、屋久島から船でトカラ列島へ行った。デカいフェリーが火災により使用不能になり、小型船の臨時便にて出発。俺を除いて乗客は五名しかいなかった。船は小さい。よくある漁船くらいのサイズ感。船長さんが「今日は揺れるよ〜。」と明るく忠告してくれた。ふーん。ま、船旅楽しむか〜。

ナメてた。ガチでヤバい。「揺れる」とかじゃない。浮いてる。みんなユニバを想像しよう。遊園地ならなんでもいい。ジェットコースターがあるね。てっぺんまでガタガタ登っていって、落ちるあの瞬間。ふわっと浮くあの感じが、断続的に続く。延々と。ハンパない。ナメてた。しかも、ときおりマジで船が浮いて、窓ガラスが全部海水で見えなくなることもあった。マジで沈没するかと思った。本気の船酔い。寝ようにも、座ってるケツが宙に浮くので眠れない。座って耐える。ドン!下から衝撃ハイ浮く!沈むハイ、ドン!浮く!沈むハイ!ドン!(以下、永遠)

おれは乗り物が好きだ。基本的に酔わない。数多フェリーも乗ってきたが、船酔いもない。しかし、強風時の鹿児島南部沖合の小型船舶はレベチだ。胃が「ピピクン、ピクン」と痙攣し始めた。変な生き物を腹に飼ってるみたいだ。ダメだ出る。吐く。しかし、エチケット袋を手に取る気力すら起きない。ドン!浮く!沈む!ドン!浮く!ハイ船ごと浮く!海水入ってくる!うわ〜とみんな悲鳴をあげる、の中で力を振り絞って袋をサッと掴む。ギットギトの、天下一品のスープみたいなマジモンの脂汗がタラタラと身体の奥底から、額を伝って滲み出てくる。じんわりと。しかし、何も食ってなかったのが幸いしたのか、ゲロは吐かずに住んだ。お好み焼きとか食ってなくてよかった。状況をどうにかしようと、一旦横になってみる。なりふり構っていられない。しかし、頭をシートにつけると揺れがダイレクトに伝わってくる。グエー!きもちわりー!殺してくれ!そんな気持ちになってくる。うう。本当に死ぬんじゃないかと思ってしまう。沈まないよな…?沈没、しないとはわかってるけど、もしものことを本気で考えてしまう。やだ!死にたくない!絶対ヤダ!悪い方向に考えるとより気分が最悪になってくるので、壊れたテントの修理方法を必死に考えてみる。昨日の強風で、ポールの設置面がバキッと折れた。どうやって直そうかな〜と考えているとややマシになるもののドン!ケツ浮く!ハイ着地頭部ガラスに強打!マジで動けん。エグい。やはり座ることにする。しかし、こう、本気で命の危機を感じる体験を、旅先でするのはこの半年で二回目だ。なんか、もうこういうのはいらないな…。日常の素晴らしさをしみじみと噛み締める。大事な人が、ゆらりと、壮絶な揺れの中で脳裏に浮かぶ。会いたい。普通に過ごしたい。

気がつくと気絶するように眠りに落ちていた。船は途中の島に寄港しており、「じゃあ休憩します〜。トイレ行きたい人は行っといてください!」と船長さんが呑気に言う。ふらっふらの足で、なんとかトイレに行く。同乗していた老夫婦に「可哀想に…。」と心配される。多分顔面蒼白だったのだろう。「いつもこんなに揺れるんですか?」と聞くと、「まあ波があるとこんなもん。」と涼しげな返答。いや、平気なんだ…。人間の適応能力って凄い。

しかし、出航後はなんだか慣れてきた。車のサスペンションみたく、揺れの周期に合わせて身体の位置をズラし、ある意味波に乗ることもできるようになった。いや、イケる。諦めなければどうにかなる。しかし、たまにデカい波に乗り上げて船がふわ、と浮く瞬間だけはたまらなく恐ろしい。それにしても、船ってよくできてんな…。ちゃんと転覆しないようになっている。

なんやかんや、耐えて目的地の「中之島」へ到着。荷物置き場に置いていたリュックは海水で水浸しになっていた。マジかよ。海水入ってたんかい!まあ、生きてこれたからヨシ。そして船長さん、マジありがとうございました。

荒波に揉まれる、とはまさにこのことを言うのだろうな。4/1から正社員として働くことになるわけだが、会社員人生はこれより穏やかであってくれと、ひっそり願う。

(2024/3/25)