大阪から島根行こうと思ったら電車消えた(終) 勝つる

前回→https://kirimanjyaro7.net/entry/2023/07/27/124034

 

夜の鳥取の郊外。歩いてる人なんていない。とりあえず爆音で音楽を聞いたりする。

 

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結構ノリノリで歩ける。ハラが減った。リュックにはバナナと団子があるからそれを食わねばならん。

 

 

お?

 

 

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ヤバい、うまそう。

 

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欲しい。胃に欲しい。

 

ヤバい。ラーメン食いたい。と、激しい食欲を感じるものの、威勢よく歩ききった。偉いぞ。無職は気軽にラーメンなど食ってはいけない。バナナをくえ、バナナを。無職は黙ってバナナ。

 

さて、道はどんどん暗くなっていく。バナナ食えば食うほど山に入っていく。ひとりのトンネル。暗い山道。最初の方はスマホのライトで足元を照らしていたけれど、そのうち充電も無くなった。音楽を爆音で聴いて気を紛らわせることもできない。

 

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だんだん眠くなってきたので、東屋で就寝。このペースでオールで歩いても電車が動く米子まで行くのは無理。寝て、近くのバス停まで行って、バスで米子まで行くプランに変更。

東屋は鳥のウンコまみれ。虫に刺されまくって一睡もできず、2時間ほどゴロゴロしたところで起床。再び歩く。

 

ひとり。真夜中を歩く。蜘蛛の巣が身体に巻き付く。暗い海が波音を立てているけれど、ひとり。山道のオレンジ色の街灯が不気味に光っても、ひとり。あまりにも怖い。怖すぎてずっと「俺は勝てる…勝てる…勝てる…」とつぶやいていた。

 

何に勝つつもりだったのかわからないけれど、なんだか勝ちたかった。夜中3時、早歩きであるいて、勝てる、勝つ、だなんてつぶやいている、25歳無職。すれ違う人がいなくて本当に良かったかもしれない。

 

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延々とカーブは続き、山道は終わる気配がない。そのうち街灯もなくなって、真っ暗になった。ライトなんてないから、暗闇の中を歩く。暗い闇の中をひとりで歩きながら「勝てる」と、今度は大声で喚きながら歩く25歳無職。警察官とすれ違わなくてよかった。てかマジで街灯の無い山道ひとりで歩くの怖すぎ。普通にチビるかと思った。

 

何分歩いたのかもわからない。腹に力を入れて、歯を食いしばって、ひたすら歩いた。汗がしっとり滲む。どれだけ歩いても暗い闇。最初の楽しかったお散歩はどこへやら。蜘蛛の巣を身体中に巻き付けて、適当に買ったバナナで空腹を紛らわせて、テクテクテクテク。勝つる勝つる、勝つる。俺は勝つ。そうか。俺にはこの気概が足りなかったんだ。勝つ気概だ。耐えて歯を食いしばることをしてこなかった。こうやって生きていかないと、いけないのかもしれない。

 

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と、ふと山道は終わりを告げた。民家だ。店だ。自販機だ!夢にも見た自販機、なんて大げさだけれど、カラカラで干上がった喉にポカリを流し込む。あまりの美味さに、震えた。空は明るくなって、海が見えた。穏やかな日常が戻りつつある。バス停なんかも出てきちゃって。そして、さっきまで覚醒していた脳は急に安心して、眠りにつこうとしていた。足取りも重くなる。ヒョヒョイ歩けた1キロが、やけに長い。さっきまでの勢いはどこへやら。

 

なんとか歩いて、目的地のバス停へ。地面に横たわる。コンクリートがやけに冷たいけど、どうだっていい。着いた嬉しさ、達成感が身を包む、なんてことはなく。そんなことより、後半にペースダウンしてしまったことの方がなんだか気になってしまった。

 

あんなに、威勢が良かったのに。あんにスイスイ行けていたのに、目標が見えた瞬間、脚が動かなくなる。手を抜く。歩き切った達成感よりも、不甲斐なさが込み上げる。

 

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勝つ。勝つる。そう呟いて、冷たいコンクリートに横たわった。

 

(おわり)