那覇①

無になって。

 

f:id:kirimanjyaro7:20230707222952j:image

 

実家に着く。前日から全然寝ていない。バカみたいに思い荷物を下ろす。

 

母親が呆れている。ボストンバッグに、スキー用の大型リュック、そして小さいリュック。本当に重かった。中には店に貼っていた張り紙が。紙だけで、この重さだ。

 

さらにはギターと店の看板もあったのだが、さすがに実家へは持って帰れないので、京都の先輩の家に置かせてもらった。とてもありがたいし、こんなに甘えて申し訳ない気持ちでいっぱいになる。先輩の部屋。学生時代に何度も訪れ。「デカいことをしよう!」そう何度も、言い合った場所。安堵の気持ちと、虚脱感。感情と脳内はぐちゃぐちゃで、そこに疲労感が覆い被さる。眠い。けど、この大量ものを運んで、しかも8時間後には関空から旅立つ。動かねば。

恐縮ながらゴミやら看板、ギターを置かせてもらい、飲食店営業許可書の返却のため烏丸御池へと向かう。身体はヘトヘトだ。バスは全然来ない。荷物も持ってもらってしまった。なぜかいつもの7割増しくらいで申し訳なくなってしまって、ずっと謝っていた気がする。多分色々と迷惑をかけた。すみません。

アホみたいに重い荷物を引きずって、御池のビルの6階にいく。淡々とこなされる事務作業。紙切れ1枚に名前と住所、店の情報を書いて手続きはおわり。これで正式に閉店だ。あっけない。目の前の職員の方は物語を引きずっていない。でも、おれは背負っている。物理的にも紙の重さが肩にのしかかる。

 

重い。

 

地下鉄に乗り、なんとか京阪へ。即、寝落ち。汗もダラダラ。そういえば、昨日の夕方18:30頃から、朝8時までずっと店にいた。

 

葬式のようだった。

 

ドタバタして。たまにしんみりして。盛り上がったり。静かになったり。ただ、時が過ぎるのを待って。形容しがたい時間。ほんとうに、言い表せないけど、葬式、というのがピッタリくる。何かが葬られるのを、皆で見届ける。見届ける、というより、居合わせてしまい見送らざるを得ない。そんな時間。ウトウト、さっきまでの時間が溶けていくみたいに、眠りに落ちた。

 

呆れ顔の母親を横目に、淡々と荷を解く。現実感がない。フワフワしている。モノが、理解できない。メシを食って、シャワーを浴びる。気持ちいい。ちょっと生き返ったみたいで。

 

目が覚めると、宅配の大きな段ボールが二つ届いていた。母親はまた呆れているが、それを横目に荷解きをする。親をあまりにも呆れさせてきたので、両親ともども呆れが板についてきたように思う。変なガキになってしまいすまんな。しかし、仕方がない。

 

そうこうしているうちに、そろそろ出発の時間だ。おびただしい数の荷物をほどいて。ひとまず整理して。でも、本当に整理などできるはずがない。

 

残りカスみたいな何かを背負って、外に出た。

 

那覇

 

f:id:kirimanjyaro7:20230707224605j:image
f:id:kirimanjyaro7:20230707224610j:image
f:id:kirimanjyaro7:20230707224559j:image

 

那覇空港に着いたけど、全然人がいない。あたりまえだけど、時刻は22:30になろうとしている。気候はかなりじっとりしている。湿度が高い。ひとまずゆいレールに向かって、歩く。沖縄にはJRや路面電車はない。モノレールに乗るが、暗くて何も見えない。この時間にチェックインできる気軽な宿はないので、快活クラブへ向かう。

 

駅を降りる。徒歩15分ほどで着く。途中で歯ブラシを買って。いやあ、京都で全部捨てちまったなあ、もったいないなあ、そう思っていたけど、まあこれも心機一転か、と思い直す。なんとなく、京都で使っていなかった歯磨き粉にしてみたり。

お腹が空いたので向かいのラーメン屋へ。ラーメン大。バカデカい。そしてうまい。店主は無愛想なオヤジ。やたらと腹が減っていたので、半チャーハンを頼む。しかし、出てきたのはデカいチャーハン。「ハン」「チャー」「ハン」って、商品名としてかなり欠陥がある、聞き取りにくさという点において、などとメンドイことをウダウダ考えていたが、これも「食え」という天からの思し召しだと思い、書き込む。が、キツイ。が、食った。ふう。

快活クラブ。完全個室で、寒い。服を洗い、シャワーを浴びる。やっとサッパリできた。こう、リラックスしていると閉店の感傷がいきなりブワッと溢れてきてしまい、号泣。たぶんすぐ寝た。

 

目覚め。寒くて身体が冷えて、ダルい。寝過ぎて、4100円も取られた。ビジホ行けるやんけぇ…!ワナワナと怒りに震え、ということではないが、また仕方ないかと割り切って外へ。またまた蒸し暑い。もう昼をとっくに過ぎていたのだが、何をするか迷う。

ふと、お客さんに座間味島という場所をおすすめされていたのを思い出し、いくことに。急いでフェリー乗り場に駆け込み、ギリギリでチケット購入。出航15分前だった。宿はないけど、キャンプ場にもギリギリで電話。なんとかテントも借りることができた。

f:id:kirimanjyaro7:20230709003931j:image
f:id:kirimanjyaro7:20230709003935j:image

 

高速船は揺れまくって吐きそうだった。睡眠不足もあって、気絶。目が覚めたら入港していて、バスに乗り込む。グラサンをかけ麦わら帽を被ったおっちゃんが運転手。外見は怖いが物腰柔らかだ。バスからは観光客がたくさん降りてくる。しかも日本国外から来たようで、この島は観光地なのかな、と思う。バスはカッ飛ばし、ものの5分でキャンプ場へ到着。受付も感じのいい兄ちゃんだった。みんな、爽やかで感じがイイ。

 

ひとまずテントの設営を終える。高校のとき山岳部だったから、懐かしいし、楽しい。ゆっくり、説明書を読みながらテントを組み立てる。ツボを押していくみたいに。傷を癒すみたいに。ゆっくりと。

 

f:id:kirimanjyaro7:20230709004347j:image
f:id:kirimanjyaro7:20230709004351j:image
f:id:kirimanjyaro7:20230709004344j:image

 

海は穏やかで。横になる。日が暮れるまで。シュノーケリングをしていた人がいたけど、みんないなくなるまで。じっ。このとき何を考えていたのだろう。店のこと。波が打って、風が吹くたび、昨日の朝のことが、映画の一コマみたいに蘇る。ほんとになくなったのか。ザザー。感慨もなくなったり、いや、切り替えられそうだなと思った次の瞬間、フワッと蘇ったり。打って引いて。僕はずっと砂浜に横になっていた。

 

夜中、ガサゴソ音がした。カラスか?パン!テントをはたくが、音は消えない。ガサゴソガサゴソ。何かが蠢く。パン!消えない。なに?こわい、と思いつつスマホのライトで照らす。見えない………ん?

 

f:id:kirimanjyaro7:20230709004730j:image

 

ヤドカリがいたのだ。ヤドカリが、地面から出てきて、蠢いて、離れていった。なんだか恥ずかしくなった。たくましく生きろよ。そう言われているような。

 

蠢く

 

夜はあまり眠れず、汗はぐっしょり。ひとまず海に入ろう。

 

f:id:kirimanjyaro7:20230709004918j:image

 

とてつもなく綺麗だ。砂浜は白く、波打ち際は透き通って、遠くを見渡すと紺碧に染まる。入る。気持ちがいい。ああ〜。なんだかなあ〜。またいつものようにウダウダ考えようとしていると、ザバー!と、波に顔を叩かれた。ヤドカリに続いて、ウジウジすんなよ。そう言われているような気がした。たしかに。そう思って、波に身を任せた。気持ちがいい。何もかも洗われていくみたい。なんだか、切り替えられそう。そう思って、海から上って、シャワーを浴びて、木漏れ日の中をひとやすみ。

 

f:id:kirimanjyaro7:20230709005234j:image

 

ダメだ。まだしんみりとしてしまう。ずーっと、あまりにも綺麗すぎる海を眺めていた。しかし、人間気分が落ち込んでいるときに綺麗すぎるものを見つめてしまうと、そのコントラストで余計鬱屈としてくるものなのかもしれない。とりあえず動くかと思い、帰りのフェリーを取るために港までいった。1時間ちょっとくらい時間があるな。メシでも食おう。

 

f:id:kirimanjyaro7:20230709005511j:image

 

かじきマグロユッケ丼。美味しかった。腹ごしらえがてら散歩して、島内唯一のスーパーでスパムおにぎりとオリオンビールIPAを購入。暑い日差しがカンカンに照りつけるなか、こうして昼間からビールが飲めるのは最高だな。ゴクゴク。うめえ〜。

 

歩いていると、展望台の標識が。ここは登って眺めるしかないでしょ!

 

f:id:kirimanjyaro7:20230709005712j:image
f:id:kirimanjyaro7:20230709005731j:image
f:id:kirimanjyaro7:20230709005734j:image

 

あまりの絶景に言葉を失った。思わず消えてしまいたくなるような、美しさ。立ちくらみがした。受け止めきれない。いまの自分はこの景色を見るべきではない。冗談抜きで、直視できなくて、ときどき目を伏せてしまった。

綺麗な、海だった。あまりにも、青い。

 

本島に着いた。歩いて服屋に行き、服を買う。着替えをあまり持ってきていなかった。そして、とてつもなくハラが減り、肉をガブガブ食いたくなった。

 

f:id:kirimanjyaro7:20230709010142j:image

 

まさかのひとり焼肉きんぐ。那覇で取る食事のチョイスの中で一番あり得ない選択肢かもしれない。しかも6人掛け座敷席。でもどうでもいい。店員も訝しく思ったろうが(おそらく特に那覇ではひとりで焼肉に行く人間はあまりいないだろう)、俺はかまわずバクバク食った。食って食って食いまくった。ハラが喜ぶ。島にいたこともあり、実は昨日からあまりメシを食っていない。

充足感とほろよいと共に、隣にあったカラオケ館に入って、30分ほど歌う。いつもの自分なら絶対しないことを立て続けに行ってしまった。そうか。世のサラリーマンや学生はこうやって、たらふく食い、酒を飲み、歌い、色んなことを発散させるのか。歓楽街はこうやって存在してるのか!長年の疑問が無事解決されると同時に、一つの感情が心に残った。

あまり楽しくない。

いや、肉はうまいし歌うのも楽しい。消費は楽しい。けど、自分の人生はこれを求めてはいない。父親は昔からこう言っていた。「なぜサラリーマンは居酒屋に行くのか?それは大きい声で会話して酒を飲んで、ストレスを発散するためだ。」父は冗談めかすのでもなく、大真面目に言っていた。もちろん、俺だって友達と居酒屋に行くし、サークルでも飲み会はあった。でも、ストレスを発散させるためだけの酒飲みは嫌だと思った。消費と発散。俺はこれらを求めてはいない。

焼肉の脂と、自分の汗と、虚無感と、那覇の生ぬるい風と。全部を身に纏って、ゲストハウスに着いた。玄関に入ろうとすると、巨大なゴキブリがお出迎えしてくれた。デカい。しかし、なんだか嫌悪感はなかった。関西ではあんなに忌避していたのだが、南国だと絶対出るだろうという前提で望むので、忌避感が軽減されたのかもしれない。

 

宿のシャワーは謎に臭く、設備もボロボロで萎えたが、ベッドはすこぶる快適だった。ドミトリーなのに荷物置き場がきちんとあり、サイズもセミダブルはあって、なにより天井が高い!2段ベッドサイズを1人で使っている感じ。最高だ。口から脂の香りを漂わせながら、いつの間にか眠りについた。

 

(つづく)