京都から愛媛までママチャリで行った話〜二日目~(後半)

周りにはほとんど人はいない。さっきから横を掠めるのは大型トラックに、恐らくは速度超過しているであろう乗用車たちで、とにかくみんな飛ばしまくっている。ビュンビュン。おれは暗澹たる気持ちで、疲労困憊の身体で、ひたすら車道の端っこでママチャリを漕いでいた。歩道なんてものはない。なぜならそう、おれが漕いでいたのは、スイスイ漕げたりもしない、つまりは平坦でもなく、要するに坂まみれで、下ったかと思うとさも当然かのように再び登りが続く、ということは市街地を通っておらず、さらにつまるところ周りに人影など存在しない

 

 

 

"圧倒的"山道_____。

 

 

 

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山道の恐ろしさは前回も話した通りであるが、まあとにかくおれはビビリまくっていた。本当に、言葉の綾で"ビビる"という表現を使っているのでは全くなく、成人もし大学も二回になりまあいうなればええ歳こいた人間であるのに心の底から「いやマジ無理ヤダ」という叫びが溢れ出ていた。ガチで湧きまくる"圧倒的帰りたさ"。ひたすらここから逃げ出したい。日は段々と暮れていき、ナメた感じに太陽は沈むわけだ。空の色もいい感じになってきた。なに茜色なってんだほんと。ちゃんと照らせ。ウゥ、気温も下がってきたし、脳内ではえんえんと、「山道で夜を迎えたらどーなる???」という何の利ももたらさないシミュレーションが続いていた。このままじゃ本当にパニくって動けなくなるかもしれない、という危機をリアルに感じたおれは、とにかく、もう漕ぎ続ける体力もないし、気晴らしにGoogle MAPを開いてみることにした!


グーグルマップ「岡山県境まで残り三 十 キ ロ」


ただ単に地図アプリを開いたことを高所で本気で後悔する男子大学生が爆誕しただけだった。しかし、このときのおれは冴えていた。人間、危機的状況に陥るとなんとかなってなんとかなるもんである。そう、俺は今まで本当に出さないとヤバイ英文レポートも、直前まで何も調べてないプレゼン原稿も全てギリギリに骨組みだけ仕上げて本番はノリでそれっぽく乗り切り教授から少しお叱りの言葉をいただいてもヘラヘラと受け流すなどして大学生活という荒波を乗り切ってきたのだ。流石に絶対間に合わんもう終わったと思った映像コンペは祈るような気持ちで締切十分前に応募フォームを開くと謎に締切が二日後に延長されていたし、チャリ盗まれた!とゲンナリしていたときは普通に学校にあったしスマホをなくしたときはマジで見つからなかった。世の中、見つからない落し物もある。スマホのバックアップは取っておきましょう。

 

 

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おれが考えたのは「山道迂回大作戦」だ。原理は簡単、みなさん、目の前にモコっとお山があるのを想像してほしい。そう、わかっただろう。「お山がある」場所があれば…………………「お山がない」場所もあるのだッ!!!!そうッ…………山を避けてチャリを漕げば今後一切山道を通らずともォォ…………目的地に着けッ……………………………けッッ…………ッッッッッッ…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ない。

 

 

 

 







そんなに甘いわけがなかろう。

 

 

 

 

 

自分の肉体をシバく

 

ママチャリ旅を

 

ナメてはいけない

 

っておもいました。(ニッコリ絵文字)

 

 

まず、当たり前なのだがなぜ山道があるかというと周囲に山しかないからわざわざ山切り開いてそこに道路をぶっ通すわけなのである。Google MAPくんに「山道通らない迂回路教えてや」と聞いてみると「ほれ。(山道)」といった感じなる。おれはもう逃げられない。さしずめ、そうだな、囚われのシンデレラ___いや「おろされて焼き鳥屋に出荷された鶏肉」であった_____。

 

 

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もうここからは自分との闘いである。まず、おれは思考を停止した。余計なことは一切考えない。気になるあの子のことも、落とした単位も、本当に着くのかということも、暗くなっていく空のことも、残りの距離数も何も考えないようにした。普段の生活ならばこういった「無」になることは難しそうなものだが、疲労困憊でひたすらチャリを漕いでいるという状況ならば割と簡単にそうなれてしまう。おれは夕暮れ時の道路で「無」になった。しかしそれだけではこの苦行を乗り切ることはできない。なんせ坂道が続くので、「無」になるだけでは思いっきりペダルを漕ぐ馬力が出せないのだ。そこでおれはこの「無」にある概念を上乗せした。

おれは、キカイ。ただひたすらチャリを漕ぐだけの、「機械」である。上がってきたペダルを「漕ぐ」のでなく、ただ足で「押す」のだ。別におれは途方もなくあと100キロほどママチャリを、それを坂道の上で歯を食いしばって漕ぐのでなくて、ひたすら足でペダルを押し込むだけの存在なのである。ペダルを、ただ押すだけ。そうするだけでママチャリは進む。目の前には延々と道は続くけれど、おれの頭の中には何もなく、ただ足はペダルを押し込むという単純動作を繰り返し、このときの自分がどんなだったかあまり覚えていないけれど、たぶん見る人が見ればその人には虚ろな目で自転車に乗る、一定速度で進む髪ボッサボサの男が"現象"として現れていたに違いない。

 

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たぶん平坦なことに感動して撮ったであろう写真。ただの道路風景をわざわざ写真に収めてしまうようになるチャリ旅、未知の領域だ...。

 

 

🦔🦔🦔

 

 

そんなこんなで自転車に乗った無はやっとこさ岡山との県境ちかくまで、それこそ"漕ぎ"着けた。(😙)

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相生市。「あいおい」と読む。高校のときに電車で来たときはそのまま「あいせい」と呼んでいた。まだ兵庫。余談だが大阪の「放出」は「ほうしゅつ」ではなく「はなてん」と読む。まあこれは一周回って有名なってみんな割と知ってるかもしれんな。ちなみにおれは「大放出」をたまに心の中で「だいはなてん」と読んでいる。たまにだけど。

 

相生市である。おれは正直相生市岡山県だと勘違いしていたので、実はまだ兵庫だと知ったときは少し落胆したものだが岡山すぐそこだし頑張ったよな。まあこれまたエグい曲線を描く道路や途中でチャリ漕ぐスペースがいきなり消滅し横断歩道も無いのに車道を渡って迂回を求められたりトンネルを何本も通ったりすると、ついにきた。普通の車道ではなく、少し気味の悪い、道は完全に山道で半分マジで登山って感じの、本当に今では一切使われていない落ち葉に枝まみれで表面がほぼ見えない旧道を、手押しで進んでいるとたどり着いた。

 

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ゼエゼエ言いながら登っているときにこいつに出会ったときの喜びは格別である。

 

備前市岡山県である。このときおれはまあたぶん、始めて笑顔になった。周りに誰もいないのに「いやったああああ!!!!」と声を張りながら手入れもされず尋常じゃない量の松ぼっくりだか枝だかが転がり、マトモに漕げたものではない坂道を全速力で駆け下りた。おれは道の上のゴミを弾き散らして下った。パンクするかもしれないけどなんでもいい、だっておれはやっと山道を乗り越えて、

 

 

 

岡山県に着いたのだから!!!!!!

 

 

みなさん、時間があれば是非国道二号に沿い続けて岡山まで行ってみてほしい。松ぼっくりを弾き散らすことにさもしい、味わったことのないような快感をプラスできるのはこの「延々持続国道二号線半修行ママチャリ旅」だけである。

 

さて、あとはひたすら先を目指すのみである。本当は広島の尾道まで行きたかったけれども、まあ時間的にも無理なのでどこまで行こうかと少し迷う。正直、もう体力は限界で、もうここの県境で妥協したいけど、これだと明日中に愛媛に着くのは絶対に無理だ。だからせめて広島にギリギリ入るあたりくらいまでは行こうと思った。道もそこそこ平坦になってきたからなんとか漕ぐけれども、急に気力がなくなってくる。嫌だな、岡山で休みたい。周りはもう真っ暗だしめちゃくちゃ寒い。ずっと山道から半袖で漕いできたからなのか、急に腹痛に見舞われた。なによりも先に進みたかったから我慢していたけど限界がきたので近くのセブンに駆け込む。トイレに入るはいいものの、漕ぎ続けた脚は小刻みにプルプル震えていて、顔は日に焼け、服は汗で塩をふいていて、髪もぼっさぼさである。うわ、人相ひでえなと思いつつやはり脚はプルプルしたまま、トイレに篭っていた。身体をあっためようとなんだっけな、たぶんほうじ茶ラテみたいなのを買った。飲む。まだ腹痛い。しんどい。イートインもないし外寒いからそりゃあんまりあったまらない。また店内戻って今度はカップ焼きそば買う。食った。コンビニの前で食った。あんまおいしくねぇ。なんかもう疲れた。あー外暗いしグーグルマップ開いたら岡山駅までまだ全然ある。道路標識眺める。まあ眺めてても距離縮まらないんだけど。そいでほんとおなかいたい。セブン前でしゃがんで腹温める。地面見た。虫いっぱい。うおすげえな、虫。焼きそばに入らんようにせなな。あー。

 

 

しばらく休んでいたら腹もなんとか回復した。正直、このときセブン前で腹押さえてうずくまっていたときが一番苛酷だったというか、見せ物としてだれかに嗤われているような、踏みにじられたような気分だった。本当は何もされていないのに。

まあ、文章では「なんやかんやで」とでも書くしかないのだけど、こういう状況であったことから察してほしいのだけど、波乱万丈あって、漕いで、まあここは忍耐で漕いで、着いた。

岡山駅

 岡山に着いたけどぶっちゃけそんな嬉しくなくて、「チクチョウ!」という謎のヤケクソと共に撮ってしまった。

到着は20時頃だった。

 

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路面電車走ってた。かわいい。岡山駅は観光客の方もたくさんいらして、結構賑わってた。岡山駅界隈、梅田感が少しあった。落ち着いた梅田という感じ…。

 

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いっとき話題になったアノ学園…。ぼさぼさの自分が映り込んでいる。どうでもいいかもだけど、なんか映り「込む」て日本語、いいな。ただ映るんじゃない感じが微妙に出ていて。 

 

まあ、そりゃこのデッカイ岡山駅に着いた訳なんだから少しくらい達成感はあったわけで、記念ってわけでもないけどとりあえず構内に入った。中にはおみやげ屋とかお店とかたくさんあって、とにかく広くて人もまあまあいて、おれはとりあえず休憩所みたいな所にあるベンチで座ってちょいと休んだ。そこで今後のことを考えたんだけど、岡山駅周辺にネカフェはいっぱいあるからここでさっさと休んで明日に備えるのは全然ありなんだな。まあでも、ここまで来たし時間もあるし少しでも余裕持ちたかったからとりあえず近くの倉敷まで行くことにした。この決断するまでに割と悩んだんだけど、最後はヤケクソ根性である。フラフラになりながらまた駅から出てきて、あんなこんなで賑わう岡山駅を横目に、おれは段々と何もなくなっていく、スッと続いていく道路の奥へと入っていった。本当に何もなくなって周りは田んぼだけになり、何よりびっくりしたのはいきなり突風と共に雨が降り出したことである。

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倉敷で見かけためっちゃデカいディスカウントショップ。店の屋根に堂々と鎮座するピッカピカの象(恵比寿さんかな?)の存在感がものすごい。放つ光量すごかったで。宇宙で見かけたら絶対一時着陸する自信ある。

 

まあでも道は広くて人いなくて超絶走りやすくて、でもいきなり突風何度も吹いて雨もやってくる、みたいな。それはそれで気持ちよかったし誰もいない世界で暇してるみたいで楽しかったかもしれない。あと倉敷まで四キロだ。四キロ長い。漕ぐ。もう休めるの分かってるから元気も少し出たし、飛ばす。あと二キロ。あーじれったいな早く着いてくれよ。ここまで漕いできたんだから。あ、すごいっ!お城だ。城というか城だ。いきなり周りが城壁みたいなものに囲まれた。へーやっぱ倉敷って有名なだけあるなとおもうわあああああちょいと文章エモなってきたと思ったからこんにゃろーー吉野家!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 

 

 

これは!!!!!!

 

 

 

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吉野家!!!!!!!!!ぐらじぎぃぃののの吉野家アァァアアアアアア!!!!!(チャリの空気入れとか置いてあってクソ助かった)

 

 

 

 

 

吉野家アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッッッッッッ!!!!!!!


 

 

 

 

 

 

 

 

 

(鶏すき丼食べてそのまま近くにある倉敷のネカフェで泊まりました。快活クラブ最高。ネカフェの王。)

 

(三日目に続く)