朝四時頃に目が覚めた。寒い。再び眠れそうも無いのでとりあえず起きて徘徊することにする。水が飲みたいのでファミマを目指す。
有楽町ってなんか聞いたことある。
銀座という地名にややテンションが上がる。
東京の地面は寝心地が悪くて最悪だったけど朝焼けは綺麗だった。
元の寝床に戻ってきてもまだ始発までは時間があったので二度寝した。しっかり入眠していたのだが警備員らしき男に声を掛けられた。ヤバイ、これは追い出されるか怒られるかのどっちかだろうか、そもそも警官かもしれないなと思っていると「もう始発出ますよ。」とだけ言って去っていった。ただの親切な男だった。恐らくJR東の職員で、毎日こうして駅周辺で寝ている人を起こして周っているのだろうな。親切じゃん…。
こいつが俺を他人の目から隠してくれていた。ありがとう、ようわからん像。
めちゃくちゃ硬かった。
さて、ここから東京駅から鈍行でどんぶら18切符で遥かなる北の大地へと…行くわけではなく、アレに乗る。
北海道新幹線だ。
実はJR東日本のキャンペーンで通常2万円以上する東京発新函館北斗行の新幹線が半額で乗れるというのだ。乗れる列車にはさっさと乗るべし。この機を逃せば次は無い。そう、東京にやってくる直前になけなしの持ち金をはたいて新幹線を予約していたのである。まあ1万円ちょいなら飛行機より安いだろう。
ウヒヒ。新幹線大好き。めっちゃうれしい。普通乗らんもんな。しかもこいつが一発で北海道に行くわけや。考えただけでニヤニヤワクワクウキウキしてまう。夢や。これがほんまの夢の超特急なんや!
うおおおおおおおお
うおおおおおおおおおおおお
うおおおおおおおおおおおおお
うおおおおおおおおおおおおお
とにかく速い。めちゃくちゃ速い。ほんとに速かった。遊園地のアトラクションよりよっぽど興奮した。東京から仙台まで90分ってどういうことだよ…。大宮から仙台までのスピード感がすさまじい。いやスピードは実際出てるのだが何はともあれ、速い。マジで速い。実は普通列車で大阪から仙台まで行ったことがあるのだが、あのかかったバカ長い時間がほんとカスの虫けら以下になるくらい、速い。一言で述べると意味不明。なんか大宮でたら東北着いた。マジなにこれ?
そして気が付けば新幹線は新青森に到着。18切符で青森に行ったことがある人なら分かると思うがこんなに気軽に青森に来れるのかと度肝を抜かれる。いや、鈍行のあの時間なに?
さて、ここからは青函トンネルへ突入する。いよいよ夢の大地、北海道だ。車掌さんがトンネルについての解説を行ってくれるが騒音で何も聞こえなかった。そして当たり前だがトンネル内は真っ暗で何も見えなかった。やたらと長いことはわかる。新幹線に乗ると技術のフルコースを味わえるな。
「青函トンネルに入りました!」みたいな案内が流れていた。
これも青函トンネル
そしてついに…
着いた。北海道!!
くう~!
さて、ついに、そしてあっという間に新函館北斗駅に到着したのであるが、駅の周囲の景色はいかにも殺風景であった。建物はほとんどなくあるのはバカでかいレンタカー屋くらい。解放感が、ありすぎる。
駅の外観。
やはり、一口に北海道と言っても、多くの人が想像するいかにもありそうな北海道の風景ばかりが広がっているわけでもない。こうしてある意味期待を裏切られるかのような景色を目にすることも旅の価値を高めてくれるだろうと思う。思っていたものばかりに出会っていても、仕方がないのである。
しかし、時間は多くは残されていないのでひとまず列車に乗り出発する必要がある。新函館北斗駅からは大まかに札幌方面と函館方面に列車が分かれているのだが、ひとまず札幌方面に向かうことにした。できれば北海道のJR全路線を制覇したい。いつ、駅や路線がなくなるのかわからないからなあ。乗れるうちに、乗っておこう。
ドキドキ。胸が高まる。
これから北海道での旅が始まる。
こじんまりと小さい車両に乗り込む。車内の人はまばらで、なんとなく落ち着いた気分になる。ついに、北海道の在来線を乗り潰す日がやってきた。車掌のアナウンスが流れ列車が発車した。俺は、いま異国とも思える程遠くの土地にやってきたんだ。そうやって早くも感慨に浸りつつ外を眺めると、やたらと気持ちの良い緑が真横を走っていく。列車はカタコトと音を立て、開いた窓からはひんやりとした風と生命を感じさせる草木の香りがやってくる。そして、目の前に広がる線路と、手が届きそうなくらい近くを流れていく、緑。誇張などではなく、京都で覚えていたせせこましい怒りとか、苛立ちがスッと消えていった。
楽しい。来てよかった。
さて、何も計画を立てていないのでどこへ行こうかと路線図を眺める。よく見てみると大沼駅で線路が二手に分かれている。
乗っている列車は分かれた線路が合流した先の森駅行だから、このままのんびり乗ってひたすら北上するのが妥当であろう。しかし、ここで俺の苦行スイッチが入ってしまった。
降りよう。大沼駅で降りて、なんかめんどくさそうな方に乗ろう。
苦行スイッチは一度入るととてもやっかいで、より辛いほう、面倒な路線へと俺を誘導してやまない。大沼で降りてめんどくさそうな路線に乗り、函館に行くときにカンタンそうな方に乗る。今回はただ普通に列車で旅行するのではない。全線、乗り潰さなければならないのである。列車に乗り込んだ新函館北斗駅から大沼駅はわずか二駅しか離れていない。東京で野宿し、新幹線に乗り、殺風景な風景をやりすごしやっとのことで乗り込んだのに二駅で降りるのか。本当に降りるのか…?迷いたかったがもはやこうして即降りることに快感を覚えてしまっているので、もう手遅れだった。大沼で降りることにワクワクし始めていた俺はおもむろに降りる準備をした。列車は、長く乗れば乗るほど気持ちが良くなってくるし、乗り換えが嵩めばかさむほど、歯ごたえが増すのである。
大沼(多分)
乗ってきた列車。楽しかった!
さて、大沼駅に降り立った。初めての途中下車だ。
駅を出るといかにものんびりとした風景が広がっていた。今回はGoogleMAPを一切使わないという縛りがあるので、適当に沼がありそうな方向へ歩いてみる。しかし、歩いても目に入ってくるのはどこまでも続きそうな道路と、たまに通るトラックくらいしかない。こういったのどかな風景は日本各地どこにでもありそうなものだけれど、でもここは他のどことも違う雰囲気があった。大げさに言えば、異国へやってきたかのような、空気。俺は、本当に北海道までやって来てしまったのだなあ。しばらく歩いていたが道路が続くばかりでさすがに水場はなさそうだ、と思ったので引き返すことにした。駅まで戻り、今度は別の方角へと歩いていく。適当に歩いていると、大沼公園の存在をしらせる標識に出会った!よかった、あっていたんだとホッとした。橋を越え、ひたすら歩く。
さて、大きい沼のある公園を目指してチョロチョロ歩いていたわけなのだが、北海道といえども外気温は高く、そして何より昨晩は野宿で風呂にすら入っていない。汗がべっとり肌に張り付いて気持ちがよくないし、途中から歩きながらずっと一つのことを考えていた。
温泉に入りたい。
乗り換え時間も三時間ほどあるし、熱い湯につかってゆっくりするにはちょうどいいだろう。しかし、GoogleMAPが使えないので温泉の場所を調べるわけにもいかない。もうここは温泉と運命的に出会うしかない。しかし、どこまでも延々と道路が続くこの場所に、温泉が果たして存在するのであろうか…。
と、ここで運よく看板を見つけた!そしてなんと「温泉」の文字が光るではないか…!アナログ地図を使う分には問題ないので、写真に収めてルンルン気分で温泉を目指す。昨日がんばって野宿したかいがあったなあ。北海道ののどかな風景に囲まれ、どこまでも晴れわたった青空の元ゆっくりと心地よい湯に浸かる…。これぞ、一人きまま自由旅の醍醐味というものだ。心なしか歩く速度も速くなる。ああ、湯だ。そうだ俺はいま猛烈に温泉を欲しているんだ。
温泉、売られていた。マジかよ。
(つづく)