6日間無計画北海道周遊紀行③

前回→https://kirimanjyaro7.hatenablog.com/entry/2022/02/03/224811

 

浅い眠りから目が覚める。空は明るい。外気はひんやりとしていて、体温を奪ってくる。寒い。動かねば。

 

人のいない室蘭を、再び歩く。昨夜はほとんど眠れなかった。途中、頭の近くに人の気配を感じた。どうしたのだろう。ヤバい。ゾッ、としつつ固まっていると人影が音を発した。

 

「にいちゃん、大丈夫か?」

 

背の低いしわくちゃのおっちゃんが俺のことを心配してくれていた。片手には何かの缶飲料を持っている。

 

「あ。大丈夫です。」

 

何がどう大丈夫なのかよくわからなかったが、こう言うしかなかった。じいちゃんは特に何も言わず、立ち去っていた。

 

歩いて、駅前のバス停に着いた。ベンチがある。嬉しくなる。横になる。

全然眠れない。早く、時間が過ぎるのを祈る。そう、祈ることしかできない。寝床があるわけでも、温かいスープが転がっているわけでもない。できるのはただ、時間が過ぎるのを祈ることだけだ。祈りは通じ、そして始発が動き始めた。

 

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特急電車の車内

 

電車に乗り、安堵する。やはり文明だな。5:25発。ひとまず札幌に向かう。

 

適当に揺られ、2時間ほどして札幌着。ここから特急宗谷に乗り込み、ひとまず旭川まで行こうと思っていた。旭川で乗り換え、釧路方面にでも向かおう。

 

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特急宗谷。7:22札幌発

 

苦難の夜を乗り越え、札幌にも着き、乗り換えにも成功した。旭川には9時前に着く。生ぬるい車内の気温と椅子の柔らかさ、そしてなによりもそこはかとない安心感と共に俺は心地よい眠りに落ちた。

 

 

***

 

 

ふと、目が覚めた。かなり寝た。徹夜明けに思い切り睡眠を取ったときの、脳みそが固く縮こまる感触。ふと、時計を見る。時刻は10:15だった。

 

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絶望の草原

 

 

ここ、どこ?

 

 

***

 

 

旭川、とっくの昔に過ぎていた。美深とかいう駅に着いた。どこだよ。地図を見る。

 

 

なんか稚内向かっててワロタ

 

 

完璧な寝過ごしを遂行したので、道東に行く予定が急遽最北端探検旅へと変貌したのであった。

 

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音威子府駅。名前がかわいい。

 

電車はひたすら北に向かう。途中分岐も存在せず、一つの線路をただただ北へ向かう。あるのは深い緑、人のいない駅。ひたすら、走りまくる。

 

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稚内に着く少し前の草原たち

 

 

 

 

そして、稚内駅に到着

 

 

 

 


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さて、ここで浮上するのが風呂問題だ。身体が稚内へと移動しようとも、風呂への欲求は消えない。駅から出て、銭湯を探す。Google MAPは使えないという制約を課しているので、何軒かホテルに行き日帰り入浴の有無を聞く。どこも、やっていない。ハンバーグを食べた。

 

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とてもうまい。肉汁がほとばしっていた。稚内の空は曇りだった。最北端の駅にきた実感はなかった。何か京都に残してきたような気分がしていた。なんとなく、曇り。ずっと、そんな気分だった。

 

折角だし宗谷岬に行こう。バスを調べてみる。しかし、ダイヤが絶望的だった。

 

今から宗谷岬に行くと、なんと帰りのバスがない!

 

どうしよう…。歩いていくか?いや、30キロもある。無理だ。レンタカー?サンダルだ。運転も怖い。無理だ。

でも宗谷岬、行きたい。ここまできたら最北端、行きたい。明日まで待つのも旅程が遅れる。どうしよう…。

 

閃いた。レンタサイクルだ!観光案内所で自転車を借りればええねんと思い意気揚々とカウンターに向かうと「17時までに返却です。」の一声で一蹴。いまは14時過ぎ。60キロ漕いで17時までに返すのは、無理。もう、宗谷岬は無理かもしれない…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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チャリ買った。7000円。1日の切符代は2000円なので、実に旅費3.5日分の出費である。観光案内所の親切なおばちゃんにチャリ屋の場所を教えて貰った。地図を貰ってなんとか到着。おっちゃんがいた。

 

「一番安いの!」

「倉庫にある!来い!」

「はい!」

(移動)

「これだ!(奥から引っ張り出す)」

「おお!おいくら!」

「7千!」

「(ちょいたけえ)安くなんない?」

「は?無理」

 

7千円払ってチャリゲット!

宗谷岬に行くことを伝えると「北海道から東京に行くとか言ってる大学生がこの間チャリ買いにきた。お前もイケる。」という趣旨のことを言ってくれた。それにしても北海道から東京までか…。アホってどこにでもいるんだな…。見習わねば。

 

 

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出発!ドキドキしながら漕ぐ。北海道でチャリなんて漕がないので、地元民の気持ちを体験した観光客の気分。ドギマギしながら何の変哲もない景色を漕ぐ。


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ダルい市街地を抜ける!

ひたすらまっすぐ!気持ちいい!

 

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気持ちいい!


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気持ちいい!水面に空が反射して気持ちいい!


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謎!気持ちいい!


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もうすぐ!気持ちいい!

 

 

 

 

 

そして

 

 

 

 

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着いた。宗谷岬だ。かなりしんどかった。しかし、意外にサクッと着く。この為に7000円か…。贅沢な旅だ。特に楽でもないのにカネをかけるあたりがセレブだ。セレブママチャリだな、これは。

 

 

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とりあえず流氷を見ておく。


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ママチャリと人々。帰る。

 


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宗谷の海は美しい。


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ペンション。泊まりたいがカネが無い。

 

 

なんだか大して感慨はなかった。しかし、いきなりチャリを買って宗谷岬に行くのは人生の実績解除としてはよかった。そして、帰りは中々キツい。いくら漕いでもつかない気がした。日も暮れていく。

 

なんとなく、叫んだ。悩んでいたこととか、叫んだ。どうしようもない周りの人間のこと。ママチャリに乗って叫んだのは後にも先にもこの時が最後だったが、宗谷は俺の叫びを受け入れてくれる気がした。叫んでいると飛行場が見えた。叫ぶ。飛行機が飛ぶ。死ぬ気で漕ぐ。飛ぶ。そして叫ぶ。なんだか、おかしかった。俺が1人でもがいている間も、夕日は美しく海に映えた。

 

そして、稚内市街に着いた。腹が減ったのでラーメンを食う。風呂に入りたい。身体が気持ち悪い。汗だくだ。筋肉も張っている。解放されたい。

風呂を探して駅にいた怪しいおっさんに銭湯を聞くが、場所が分からず断念。Googleマップ

はやはり便利なのだな。

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仕方がないのでこの日も野宿だ。ちょうどいい駅前のベンチに銀マットを敷く。
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駅はあやしく光る。


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チャリもいる。買ったばかりの銀色のやつ。前輪に鍵が付いているタイプは初めてみた。


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銀マットの中。ココスの包み焼きハンバーグみたいだな、なんて思いながら、眠れず。半分気絶といった風情。

 

稚内の風は冷たい。

(3日目終)