【前回までのあらすじ】
ラーメン屋での軽いノリから京都の今出川から愛媛の今治までママチャリで行くことになり、鴨川を通り大阪まで行きネカフェ泊を繰り返し兵庫を過ぎ雨に降られ山の上で絶望するなど色々あった末、やっとの思いで岡山県の倉敷まで漕ぎ着けたのであった。
三日目。倉敷のネカフェで朝を迎える。結局二日目は190㎞も漕いだ。すごいぞ俺。しかし愛媛の今治までは100㎞以上もあるのでまだまだ気は抜けない。なんせ次の日の二限に大事な基礎演習のゼミを控えていたので、なんとしてもこの日中に今治に着かねばならないのである。
とまあ、倉敷を出発する。道は広く、かなりスイスイ漕げた。
ネカフェを出てすぐに撮った写真。道はかなり広い。そして右側に「かに道楽」の看板が見える。バイパス沿いのマクドナルドみたいなノリで「かに道楽」がぽつんと存在しているの、なんか不条理感がある。
まあ平坦な道をスイスイ漕ぐ。朝早くから部活があるのか、自転車に乗った中学生をぽつぽつ見かけた。こう、おれは旅先で観光地を訪れたりすることより、こうやって地元の人のただの日常をふわりと眺めたりするのが好きなのである。これこそ知らない地に行くことの醍醐味であるというか、自分も彼らと同じ場所で、フツーに時間を過ごしているとき、ああ旅だなあと感じる。
🦉🦉🦉
さて、実はおれはこの道中でとある学びというか、教訓を得た。
「しばらくスイスイ進んだ後には、なんやかんやでスイスイ進めなくなる。」
(When you can go ahead smoothly, you will soon fall into a swamp.)
つまるところ、スイスイチャリを漕いでいたおれの目の前がいきなり自動車専用道路になったのだ。
うん。
Googleマップは「このまままっすぐ進め」というのだが、無理だ。なんせここは自動車専用道路。はあ、仕方なく横の道に逸れるか。まあ、こういうときは大体横の道に迂回路があるのでテキトーに走っとけばそのうち本線に合流でき草ぼうぼうの行き止まりになったよね。うん。目の前草ぼうぼう。行き止まり。はい、道路によくあるよね道路かと思いきや草ぼうぼうになるやつ。草。
おれは草ぼうぼうの中で立ち尽くしていた。いや、正確に言うと「草ぼうぼうの中真顔でGoogleマップを見つめてはそこらをキョロキョロ」していた。
五里霧中。八方塞がり。四苦八苦。
…。
仕方なく思い切り迂回することにした。どうしようもない。なぜか踏切を渡ったりする。これは流石に全然違う場所に迷い込んでいる気がする…。ここどこ?と、田んぼにこじんまりとした民家、やや狭い道路、そしてほとんど人いない、なんて場所に入った。さっきまでうひうひ言いながらご機嫌に漕いでいた太っとい道路は遠くに見えて。なんだかこれはこれでいいな、と思った。なんならこういう静かでのどかな小道、あまり人のいない、でも土地に息づいた場所を巡ってサイクリングするのも結構いいなと思った。
ぼうぼうの草、ありがとう。
田んぼ。
さて、その後普通に、つつがなく本線に合流してしまったおれはひたすらチャリを飛ばした。スイスイ行ったあとはスイスイ行かなくなるものだけれど、ちょいと頑張ればまたスイスイいったりもするものなのかもしれない。おれは途中川沿いを走って目の前を走るロードバイクの二人組に追いつこうとして頑張るもすぐに見えなくなったり、地域の方々が集まって草を刈っているのを見かけたり、そして軽い丘みたいな山を越えたり、純粋におれはサイクリングを楽しんでいた。やはり、なんやかんやでサイクリングは楽しいのである。
そして遂に広島に着いた。
広島に入ってからはなんだか周囲の趣が変わった。平地を走るというより、高架の上をひた走る感じ。生活感みたいなのは消え失せ、かなり非日常感が漂う。人はほとんどおらず、車ばかりがビュンビュン走る。こういうのも結構楽しい。人がいないのをいいことに調子に乗って漕ぎまくる。そして、やっと見えた。
坂はほとんど無いのに山々している。とてつもなく走りやすかった。
「しまなみ海道」の案内だ!!しまなみ海道というのは本州と四国を結ぶ道路のことで、下の写真のように瀬戸内海に浮かぶ島々を経由して終着点の今治まで至る。車はもちろんのこと、自転車も通行可能なのでサイクリングロードとしても人気なのである。行程は約70㎞。自転車を漕いで本州から四国に向かうならばここを通るしかない。
島々を経由していく。
さて、一応の達成感と共に漕いでいたのだが、ここでトンネルに入った。なんだか高速道路みたいだ。うん?なんか下ってない?坂か。いや待っていや、えっすごいスイスイ車輪が回るなにこれちょっとうおおおあおおおああああああああおおおおなんだこの下り坂ー!!!!!!!!!!!!!!!!!!
ヤバイ。
下り坂ヤベー!!!!!!!!!
ハンパない下り坂が始まった。これは誇張抜きにいうが、本当にハンパない下り坂であった!!!!!!!!!幹線道路沿いに不意に現れるジェットコースターとでも言おうか、チャリ漕ぎに突如降り注ぐ超絶シャカシャカ爽快お楽しみイベント、スイスイではなくビュンビュン、やはりジェットコースターという形容が一番よく合う、ビュンビュンマルマルウルトラマトリクス
めちゃ長くてスピード出るメチャタノシー
下り坂であった________。
怒られが発生するかもしれないので小文字で書こうと一瞬思うもやっぱなんとなくデカ文字で書くが、あまりにも素ン晴らしい下り坂だったのでカッ飛ばしてしまった。時速20㎞/hは余裕で出てたような気がする。「これはヤベエ・・・」と脳みそが奮い立ち変な脳味噌汁みたいなのが出て心の底からゾックゾクした。ぶしゃぶしゃと溢れる手汗。カッ開かれる眼。強張る上半身。そして体験したことの無いような風を全身で切る、俺。
そしてお約束の迂回路。夢は儚し。
小さくて見えにくいだろうが、この小さなトンネルのようなところに入り迂回するよう求められる。割と色々な場所を自転車で旅しての所感だが、日本の道路事情は思ったよりややこしい。そして、これは断言できるのだが、日本の道路は”自動車”のために設計されている。狭い国土では自転車専用レーンなんてものを整備したり歩道を拡張したりすることは困難なのであろう。確かにそれは難儀ではあるが、道交法で自転車が原則車道の左側を走るように定められているのは、狭い車道を漕いでいるときに自動車と接触してしまわないか常にヒヤヒヤしている身としてはいささか現状認識に欠けるのではと思う。実際車道を走る自転車と自動車の衝突による死亡事故も発生しているのであるから、まず道路環境をきちんと整えるのが先であろう。結論クルマは空を飛べ。おれは地面を漕ぐ。
🐎🐎🐎
さて、しまなみ海道の起点である尾道は目前である。尾道と言えば創作の舞台になったり尾道ラーメンで有名であったり、つまりなんやかんやで有名だったので、おれはそこに淡い憧れを漠然と抱いていた。尾道はまだか。とにかくおれは自転車を漕いだ。段々と、平地が見えてくる。歩く人が見えてくる。お店が並ぶ。民家もある。山は終わり、いつのまにか海が近づいてきたのが地図からも、雰囲気からも、そして空気からもわかる。おれはややのんびりと自転車を漕ぐ。あと4㎞で尾道だ。ここからが長い。お昼ご飯前の授業の残り10分が永遠に感じられるみたいに、尾道までの数キロはどっかりとおれの前に横たわっていた。だがなんとか漕ぐ。今までと同じように、おれは漕いだ。
そして、港のような場所にたどり着く。
走りやすかった。釣人が何人かいた。釣りしたい。外来魚釣りたい。
そして海に掛かる大きな橋を渡る。
橋からの眺め。
そして、橋を渡ってしばらくすると
尾道だ!!!
本当に、心の底から来てよかったと思った。なんだか虚構の世界にやってきてしまったというか「こういうのいいよね」のまさに"こういうの"がそのまま目の前にあった。イメージされる「夏」「郷愁」そのものというかどこかにある原風景が確かにそこに広がっていた。もう変に言葉を尽くすのも野暮ったいのでとにかく一度尾道を訪れてみてほしい。山がこんもりあってふとした瞬間に海があって、もこもこと島々がそこに浮かんでいたりする、尾道。
尾道はサイクリングロードでもある「しまなみ海道」の起点ということもあってか、自転車乗りに優しい街だった。駐輪場が広々とあって、駅の前には自転車組み立てスペースみたいな場所さえある。自転車を分解して電車に乗せる人(そうやって自転車を持ち込むことを輪行という)のためのものなのだろうな。自転車好きがたくさん集まって和気あいあいと過ごしている光景はチャリ乗りの聖地・理想郷そのものであった。現実にこういう世界が存在するのか、というつかみどころのない感銘と共に、おれはカンカン太陽が照らす街を、海に面した尾道を、歩いていた。
駐輪場の看板。もちろん無料。やさしい。都市部でよくある自転車撤去とか、見ているとちょっとしんどいよね。
さて、これからいよいよ四国上陸を目指すのであるから腹ごしらえをすることにした。かの有名な尾道ラーメンを食べる。
シンプルにおいしかった。醤油ベース(多分)で、麺は固め。値段もちょうどよい。こういう素朴なあじわいが旅情をいっそう掻き立てたりする。と思う。
尾道駅の近くにありました。
なんかやってた。いい芝生。
ほっこりお山。山の上にぽつんと城があるのがよい。
いつかここで映画が観たい!津々浦々のミニシアターで映画を観るの、絶対楽しいと思う。少し話が逸れるけど、「旅先で映画を観るなんてありえない」「せっかく旅行に来たならそこでしかできないことをすべき」みたいな、旅行したのならちゃんと頑張って楽しみ尽くさないと!的な意識、割と広く常識として共有されている気がするけど、旅をそんなに神聖視しなくてもよくない?とも思ってしまう。なんというか、旅先で無為に時間を過ごしちゃったりいわゆる見どころスポットに全く行かずふらっとその地に寄るだけで素通りしてしまったりするのも割とありなんすよね。いつものような平凡な時間を、自分が知らない土地で過ごすというのも存外に楽しいし価値あるものだと思う。
何故か撮った改修中の駅。今度はのんびり電車で来てみたい...。
そして、尾道からは瀬戸内海が見える。
奥に見える橋がしまなみ海道の最初の橋。向島という島までを結ぶ。ただし、この橋だけは自動車専用道なので、チャリンコ乗りは船に乗って向島まで行く必要がある。
橋は結構デカイ。
尾道をぶらついたおれはすっかりいい気分になっていた。しかし時間はそこまでない。この日のうちにしまなみ海道を走り切り、四国上陸を果たさねばならないのである。おれはそこそこに、向島に行くフェリー乗り場を探し始めた。そして尾道の魅力にすっかりハマりルンルン気分だったおれは、一つの誤りに近い考えと共に船乗り場を探し歩いていたのであった。
ーしまなみ海道って、海沿いを通っているのだろうしすぐ走れそうだな。
三日目(後半)につづく。